真冬の恋人たち【作:名無しヲタモダチ】



冬の湖、氷の鏡、私とあなた。

「梨華ちゃん、明日あったかい格好してきてね。」

昨日、おやすみの電話の最後にあなたが言った理由が
ここに来て初めて分かった。
あなたが昔家族でよく来たというスケート場。

スケートは嫌い、だって立ってるのがやっとなんだもん、
ひとみちゃんのイジワル。

「見て見て〜。」

ニコニコしながらバックターンでポーズを決めてるあなた。

子供みたいにはしゃぐあなたは可愛いけど……。
颯爽と氷の上を滑るあなたはかっこいいけど……。

普通、恋人同士がスケートしに来たら、

「私滑れないの〜こわ〜い。」
「大丈夫、ほらつかまって!」

とかいう会話の後手を繋いでラブラブな展開になるんじゃないの?
なのに、ひとみちゃんはひとりでスイスイ楽しそうで。
なのに、私はそれを見ているだけで。
だから、だから。

「かわいいね、キミ。」
「ねぇ、ひとりきりなの?あっちであったかい物でも飲まない?」

なんて、知らない人達が声をかけてきた。
こんなところにひとりでくる訳ないじゃない、なんて思いながら、
ひとみちゃんの姿を探すと…。

清水宏保も真っ青の速さでこちらに向かって来た。

「なんか用ですか?」

私を後ろに隠し、かなりの不機嫌声でその人達に詰め寄る。

「いや別に…、そうだキミも一緒にどう?」

ドサクサ紛れにひとみちゃんまで誘ってきた人達に、

「お断りします!」

キッパリ言い放つと同時に私の右手を取りその場を去った。

さり気なく私の腰を支えてくれているひとみちゃんの腕から、
あたたかさが伝わってくる。
そして自分の体がとても冷たくなっている事に気付く。

ひとみちゃんがひとりにするから………、
すごく寒かったんだから………、
心細かったんだから……、
寂しかったんだからね。


「ゴメン……。」


ひとみちゃんは私のご機嫌を伺うように正面に廻って
顔を覗き込んできた。

「もう、怖かったんだから!」

そう言ったけど、本当は怒ってなんかいなかった。
ひとみちゃんが慌てて飛んできてくれたから。
その様子が可愛かったから。

「ごめん……だって梨華ちゃんにかっこいいトコ見せたかったんだもん。」

ひとみちゃんずるい、
もし怒っていたとしてもそんな言い訳されたら許しちゃうに決まってるのに。

「もう、ひとりにしないでね。」
「うん。」


それから手を繋いでひとしきり楽しんだ後、湖畔のカフェで暖をとった。
冷えた身体に甘いミルクティが広がっていく、その感覚を楽しんでいると、

「かわいいね、キミ。」

声を作って、

「ねぇ、ひとりきりなの?」

さっきの人のマネをするひとみちゃん。
ニヤニヤしながら私のリアクションを待っている。

「ごめんなさい、先約があるの。」

そう言った後、心に決めている人なの、その人じゃないとダメなの、
と小さく付足す。

ひとみちゃんは自分を指さして得意顔。

「誰でしょうね?」

私がとぼけると、

「決まってんじゃん。」

ひとみちゃんは周りを見廻した後、優しく触れるだけのキスをくれました。

大好き、大好き、ひとみちゃんが大好き。
もうひとりにしないでね、
いつでも手を繋いでいてね、
いつでも一緒だからね。

ひとみちゃん………私の大切な恋人。

end


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