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「あれってスキー場だよね?」
地方でのライブ後に泊まったホテルの部屋
窓辺から見える遠い山あいにライトアップされた白い帯
二年前の夜と同じだね…
ひとみちゃんはもう忘れちゃった?
◇ ◇ ◇
「ねーねー、梨華ちゃんアレ何だろうスキー場かな?」
あいぼんやののと騒がしく私の部屋にやって来たひとみちゃん
一人で窓辺に立って何を熱心に見てるのかと思ったら…
「んー、そうなんじゃない?なんか人工雪とかで早くから滑れるみたい」
私が窓に近づいたとたんにひとみちゃんは
そこを離れてヒーターの前に座り込む
なんだかちょっと…側に寄るの避けられてる?
心の中のゲレンデに白いシュプールで描かれる顔が
ひとみちゃんに似てるって気がついたのはつい最近
何でもない仕草がいちいち気になるの
そんな私の気持ちに…気付いてる?
「それにしても寒いよぉ〜。…うりゃ!」
冷えた手でペタペタとののとあいぼんの頬に触れては
冷たいと逃げ回るのを楽しそうに追いかけてるひとみちゃん
気付いてるわけないよね…
その姿に愛っていう文字なんかどこにもなさそう…
霜が降りて白く曇ったガラスに「好き」と書いて慌てて消す
ひとみちゃんの笑顔はみんなに同じだけ向けられて
ひとみちゃんの優しさはみんなを同じだけ笑顔にする
私一人に向けられる愛…そんな日が来ることあるのかな
ひとみちゃんに会うまでは夏の海辺や冬のスキー場で素敵な人と知りあって
…ってそんな安っぽいラブソングみたいな恋に憧れたこともあった
でもねひとみちゃんへの想いは風に舞う白い粉雪みたいに最初はうっすらと
そしていつのまにか私の全部を覆い尽くすみたいに降り積もってた
部屋の暖かさに霜が溶け出した窓ガラスに映る泣き顔の私
その向こうにいる白い恋人…あなたは幻なの?
「どした?」
いつの間にかすぐ側に来ているひとみちゃん
あわてて目尻を拭ったけど見られちゃったかな…涙
「なんでもないよぉ…あいぼんとののは?」
「うん、やっと寝てくれた」
窓に映った部屋
さっきまで騒いでいた二人がツインのベッドの片方に
寄り添って寝息を立てている…電池の切れたおもちゃみたい
「でね、今チャンスかなぁ…って」
ひとみちゃんの手が私の肩越しに伸びて来て
窓ガラスを細くしなやかな指が滑る
「スキ」
その文字はすぐに水滴になって流れ
さっき私が書いて消した「好き」の文字と交じり合う
これって…
もう日記に鍵をかけるみたいに想いを閉じこめなくていいの?
「私も…」
振り返って幻じゃない本当のひとみちゃんをつかまえる
やっと…やっと、つかまえた
◇ ◇ ◇
あの日この場所で私は白い恋人に巡り合ったの
ひと夏の恋もひと冬の愛も…
ラブソングみたいに簡単に忘れてしまう季節なんか
とっくに過ぎてた事を教えてくれた私だけの白い恋人
ひとみちゃんが忘れちゃってたとしても、私は絶対忘れないよ?
窓辺のひとみちゃんの隣に立って
あの日と同じに窓ガラスの霜に「好き」と書いてみる
気付いてくれる?
チラリと横顔をうかがうとあの日と変わらないやわらかい笑顔
すっと伸ばされた指先から私の気持ちに並ぶように「スキ」の文字が現れた
やっぱり覚えててくれた!
忘れたフリなんてホントいじわるなんだから
だけどやっぱり…そんなところも
大好きだよ、ひとみちゃん
end
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